2つの美術展から(上)「荒井善則展-無意識が世界を版にする-」と中原悌二郎賞創設50周年特別展

2月初め、市内で開催中の2つの展覧会を鑑賞しました。ひとつは「荒井善則展―無意識が世界を版にする―」(道立旭川美術館第2展示室)。東海大学名誉教授で現代美術作家・荒井善則さんの50年にわたる制作の軌跡が紹介されています。

荒井善則展

荒井さんは1949年長野市生まれ。1972年に東海大学工芸短期大学(後に東海大学旭川校舎)開校と同時にデザインの教員として赴任。以降、旭川を拠点に創作活動を展開しています。英国やデンマーク、韓国など海外でも積極的に作品を発表するなど旭川の現代美術を牽引してきた国際派アーティストです。

2月6日に開かれた荒井さんのアーティスト・トークには、札幌や帯広から、荒井さんと国内外の美術展で活動を共にしている現代アート作家の方々を含め約30名が参加されていました。

会場には初期の銅版画から現在まで、版画を中心に50作品が並んでいます。赤や黄、緑の原色。年代を追って色彩は多彩になり、線は有機的に変化し、軽快なリズムを刻んでいます。角材の隅にインクをつけて直線を引き、擦りだすモノタイプの作品も。それぞれの作品が放つエネルギーに圧倒されながらも、アートの心地よい刺激に心身ともに癒される、とても良い空間となっています。

制作に際しては、自分を取り巻く社会状況や世界情勢を意識することがもとになっているといいます。1991年の英国研修を機に自然への関心が高まり、自然と一体化しながらその変化を感じ、そこから得られた感興を無意識のうちに表出すことで制作がなりたつとのだといいます。すなわち意識と無意識の中で、偶然的、無意識的に生じる色や形の重なりあいによって作品が生み出されているのです。自然へのまなざしは素材にも向けられ、エコロジー思想による造形美は高く評価されています。

1970年から80年代にかけて、旭川ではさまざまな現代美術のグループが誕生し、活発に活動を展開していました。会場では旭川が北海道の現代美術の先駆、前衛芸術の拠点ともいえる場だったことが理解できる記録や資料も展示されています。

旭川が前衛芸術の拠点ともいえる場だったことが理解できる記録や資料

版の概念と可能性をテーマに新たな表現に挑戦し続けてきた荒井芸術の神髄と、旭川の前衛芸術の歴史に触れる展覧会です。3月31日(水)まで、

次回は、中原悌二郎賞創設50周年特別展を紹介します。