「ナガレスタジオ 流政之美術館」開館に寄せて

高松市庵治半島の東端。瀬戸内を見下ろす断崖絶壁に建つ「ナガレスタジオ」。昨年95歳で逝去された世界的彫刻家の流政之さんのスタジオ兼住居です。巨大な城塞のような建造物は、主が亡くなった今も公益財団法人流財団により当時のままに維持され、このほど「ナガレスタジオ 流政之美術館」としてオープンしました。

6月下旬。美術館開館の案内状を手に3年ぶりに高松を訪ねました。用意されたシャトルバスに乗車し、約40分。山肌に沿って取り囲むような煉瓦造りのスタジオに到着。巨大なゲートを抜け、一歩中へ入ると代表作「サキモリ」をはじめ、大小さまざまな彫刻作品が目に飛び込んできます。広い敷地内やスタジオの中にも流さんの作品がズラリと並んでいます。その数、ボリュームは重量級。こうして彫刻に囲まれていると、「やぁ、待たせたね」という流さんの声が聞こえてくるようです。レセプションパーティーは全国各地から訪れたファンや美術関係者であふれ、思い思いに故人を偲び、「流政之美術館」の開館を祝いました。

流政之さんの代表作「サキモリ」
(NAGARE STUDIO 流政之美術館所蔵)

流さんは長崎生まれ。立命館の創始者、父中川小十郎から古流武道を学び、刀鍛冶。ゼロ戦パイロットを経て、戦後は日本各地を放浪後、石彫を始めます。高松市庵治で石匠塾を結成後、渡米し、ストーン・クレージーやNYのワールド・トレードセンターの広場に7年の年月をかけ「雲の砦」を制作しました。雲の砦は1991年9月11日の同時多発テロで、撤去を余儀なくされましたが、現在、道立近代美術館(札幌)の前庭に「雲の砦JR」として、約半分の大きさで設置されています。

北海道との関りは旭川市が制定した中原悌二郎賞の受賞(1978年)がきっかけでした。受賞作「かくれた恋」は旭川の忠別橋に設置され、川の流れを静かに見守ってくれています。その後も奥尻島の「北追岬公園」や東大沼の流山温泉「ストーン・クレージーの森」、赤平市エルム高原「彫刻公園サキヤマ」など、道内各地に作品が設置されました。

ギャラリーシーズでは2004年に「NANMOSA流政之展」(道立近代美術館)に合わせて開催した「流政之彫刻小品展」と3年前の2016年に当ギャラリー25周年記念として個展を開かせていただきました。

「NAGARE STUDIO 流政之美術館」

 香川県高松市庵治町3183-1

開館日 木曜~土曜  予約制 ℡ 087-871-3011

入場料  一般 5000円 大学生以下 2000円


※『グラフ旭川』2019年8月号掲載記事より