「歌川広重 二つの東海道五拾三次」で、旅の追体験を

新緑が眩しい季節を迎えました。初夏の風に誘われて、旅に出かけたくなる気分ですが、今は我慢、我慢。そんな中、鑑賞するだけで旅の追体験ができる展覧会にご案内いたしましょう。道立旭川美術館で6月27日(日)まで開催される「歌川広重 二つの東海道五拾三次」です。

江戸後期の絵師・歌川広重(1797-1858)の代表作「東海道五拾三次」は、江戸と京都を結ぶ「東海道」を舞台に、53か所の宿場町と起点の日本橋、終点の京都・三条大橋を含めた全55図による浮世絵木版画の連作です。

東海道は大名行列や伊勢参宮などで多くの旅人が行き交う重要な街道として賑わいました。広重は生涯に20種以上の東海道シリーズを手がけましたが、その中でも最も人気を博したのが「保永堂版」(1833~34年)です。会場では「保永堂版」と、その15年後に刊行された「丸清版」(1847~51年)が同時に鑑賞できる展示になっています。それぞれ異なる視点で描かれた二つの版を見比べることで、東海道の旅を追体験できるとともに名所絵師・広重の実像も探れる内容です。総数110点で、大正時代に撮影された宿場の写真も併陳されています。

さて、作品の一部をご紹介いたしましょう。

最も有名な「日本橋 朝之景」は、朝早くに江戸を出発する参勤交代の大名行列と、魚を天秤棒で担いだ男たちが行商に出かける姿が描かれ、早朝から賑わいをみせる日本橋の活気を伝えています。また「箱根 湖水図」は、そそり立つ山々の色とりどりの表現と、静かに広がる芦ノ湖、遠くに望む白い富士山が対照的な構図が広重ならでは。

「原 朝之富士」では、富士山の優美な姿を仰ぎ見る視点で描き、山頂は画面からはみ出し富士の高さを強調しています。遠景の山々にぼかしを用いて画面に遠近感を生んだり、木版独特の発色や温かみのある風合いを作り出したりしているのも広重の本領でしょう。

一連の作品はそれぞれ、河川の徒歩渡しや馬や肩車で川を越える旅人の姿、各地の名所・名物、四季の移ろいや雨、雪、霧といった気象の変化などを巧みに画面に取り入れ、見る者の旅情をかき立てます。

「東海道五拾三次」の距離は約495㎞、当時で約11泊12日の旅程になるそうです。広重の絵に導かれ、全作品を見終わった頃には東海道を旅した気分になっていることでしょう。