デザイン的思考で美しい暮らしの実践を

新型コロナウイルスによって、これまで経験したことのない生活様式を強いられ、それが定着しつつあります。コロナ以前の日常は少しずつ戻ってきていますが、夏祭りや花火大会などの夏のイベントはしばらくお預けですね。それでもこんなときこそ、身近な自然やものごとに関心を向けて、生活を見直してみるもの良いと思います。

筆者は旭川市内の道新文化センターで美術講座の講師を務めていますが、この6月に3カ月ぶりに講座を開講しました。今年はオリンピック・パラリンピックが予定されていたこともあり、各美術館では日本美術に特化した展覧会を多く企画していたため、美術講座のカリキュラムも日本芸術史に焦点を合わせて組みました。

日本美術史は、飛鳥時代に仏教が伝来し、日本最古の飛鳥寺や法隆寺が建立されたところから始まり、仏教美術とともに発展してきました。ところが50年ほど前、岡本太郎が縄文時代の土器に造形の美を見出したことで注目を集め、当時は考古学の分野だった縄文文化を日本の造形美術の始まりととらえるようになりました。筆者の美術講座では、縄文時代から現代までを網羅した上で、建築や庭園なども学びます。それらのテーマは芸術活動と密接なかかわりがあるからです。各時代の絵画表現の特徴を知り、その作品が生まれた背景を踏まえて体系的に学ぶ予定です。そしてもちろん、画像や動画を使って楽しみながら身につけていきます。

 芸術やアートという概念は古くからあるため、ダ・ビンチの「モナリザ」やミケランジェロの「ダビデ像」などの古典的作品を連想しがちですが、もともと芸術は教養の一種であり、芸術を学ぶことは、過去の優れた作品や事例から価値あるものを見出して、より良く生きるための知識と技術を得ることと繋がっています。現代社会における問題点を探り、改善し、私たちの身近な環境の中で生かしたり、また生活空間等を整えたりするための知恵や技術となり得るのが芸術なのです。

教養としての芸術を広く学び、伝統を訪ね、デザイン的思考でものを見つめるまなざしと、よりより良い暮らしを実現する方法論を身につければ、今後のウィズ・コロナの生活でも自分らしく機能的で、美しい暮らしを実践できると思います。

国宝「阿修羅像(八部衆)」(興福寺)
国宝「縄文土器火焔型士器」

※『グラフ旭川』掲載記事より